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JIHOIN-TEMPLE
持宝院
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埼玉県川口市安行に江戸時代初期に創建された「持宝院」のリニューアル計画である。 プロジェクト開始当初、境内に干渉する外環道の開通や敷地の一部売却等の結果、本堂は境内の端に位置していた。 遊休地を二百区画の墓地として開発した場所は、寺檀制度の衰退もあり二区画しか売れず、経営的にも厳しい状態であった。
巨大な外環道に対して物理的に抗うことは不可能であるが、経営を安定させるためには伝統寺院が本来持っている求心力を取り戻すべく再生させる必要があると考えた。 そこで、境内の中だけでなく背景にある雑木林を霊園として開発、本堂を中心に据えて、その周りを既存墓地と霊園が取り囲むマスタープランを立てた。 本堂が中心にある事で、そこに眠る故人が御本尊に見守られるし、三重の主参道を本堂を同心に四角く巡らせることで、参拝者も外環道の存在を周縁化し、本堂が中心にある事を強く意識するようになる。
主参道の間にはランダムに枝参道を配し、回遊させるだけでなく墓石に至るまでの経路を選択出来る豊かさを備えている。 同時に四季折々の植栽を植える事で墓石を特定し易くして、主参道の舗装を枝参道と区別する事で、本堂を中心に迷わず一周して山門に戻る事が出来る。
法律的には墓地の拡張が五年超毎、且つ開発する墓地面積<既存墓地面積という規制があり、経済的には段階的な霊園開発による資金調達が必要なので、境内の拡張と新たな霊園開発を繰り返しながら再生させる十年に及ぶ持続可能なマスタープランを寺院へ提案した。 今回の礼拝堂新築と霊園開発はその第一期に当たる。
礼拝堂によって「開かれた寺」として山門付近を整えたい一方、本堂の求心性を邪魔することなく高めたい。 そこで、周辺にある雑木とは対比的な石庭をつくり、それを眺めるための展望施設として機能するように濡れ縁を廻し、建物中央に穴を空けて、いずれ本堂を中心に境内を一周する参道の一部になるようにした。 マスタープランが完成すれば、参拝者や檀家のトイレや休憩所としての機能も担うようになる。 礼拝堂は主役ではなく、寺院環境を陰で支えるシステムのような存在である。 約四百年の歴史と伝統を誇る寺院の時間的な厚みに対して、「伝統寺院を本来あるべき姿に戻す」べく、最大限の敬意を表した空間的な提案である。
法要室の三方を囲む乳白のガラス戸には三つの効果がある。 日中にガラス戸を閉めれば、石庭の枝葉の影と乳白の光を映し出すスクリーンになる。 ガラス戸を開ければ、石庭を眺めるためのフレームになる。 夜間は礼拝堂全体が行灯のように灯って見える。
持宝院- 所在地:埼玉県川口市
- 建物用途:法要施設・墓苑
- 構造規模:木造
- 建築面積:108.16m²
- 延床面積:77.83m²
- 竣工:2017/03