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CHARNEL HOUSE IN HINO
普門寺 みちの墓苑
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寺院のランドスケープを変える、樹木葬のための2つの小さな御堂
東京西部の郊外、創建1398年という歴史ある寺の境内の一角に、新たな墓苑をつくるプロジェクトである。
普門寺(ふもんじ)の境内は南北に細長く、墓域である北側と、墓域への参道と本堂などの諸堂がある南側、この2つに完全に分かれていた。空き地はほとんどなく、南北それぞれの隅にわずかに残るのみ。さらには市の条例により、新たな納骨堂を建てることが難しく、今以上の檀家数の増加も望めないという。このような条件下で、苑内にて永代供養する樹木葬を前提に、遺骨を一時的に預かる預骨(よこつ)堂(施設名称は「宿り日堂」)と、樹木葬のための小堂(合祀墓、施設名称は「おもい木の塔」)を、境内の南と北の端にそれぞれ新築し、この2つを連携させるプランを考えた。
預骨堂「宿り日堂」の敷地は、約200年前に建てられた、市の有形文化財にも認定されている観音堂と北側を接している。
当初の案は、建物のほとんどを地中に埋め、地上を石庭にするというものだった。禅宗様(ぜんそうよう)と呼ばれる伝統的な造りの観音堂に対し、現代の建築工法による預骨堂を並べることを回避したかったからだが、地盤が硬く、そこまでの掘削は難しかった。結果的に、掘削は1メートル弱にとどめ、観音堂と並んで預骨堂を建てた。日本古来の仏閣建築の配置には、正堂(仏堂)の前または隣に礼堂をおく双堂(ならびどう)という形式があり、概念としてはこれにならっている。
だがしかし、現代の建物と、古建築の様式・構法・属性を揃えることは難しい。そこで、いっそのこと強力な近似を試みて、両者の違いを含めて背景へと昇華させることにした。
具体的には、全方位ファサードの外壁を漆喰の掻き落としで仕上げ、屋根は古瓦で葺いた。どちらも自然に経年変化していく素材である。さらに、外壁には伝統的な木造建築の意匠である裳階(もこし)をつけた。実際には3層しかない建物を「五重塔」に見せる効果がある。この預骨堂は、樹木葬までの一時期、遺骨を安置しておく場所である。床レベルはグランドラインから約85センチ下げ、内部には階段を降りて入る。室の中心に据えた檜の丸太は(ここは仏教寺院だが)「御神木」のような位置付けで、この柱を中心に、参拝者を包み込むような空間にしたいと考えた。
壁の中間地点には窓を開け、四方をぐるりと巡らせた。日中はここから障子越しに外光が入り、礼拝室内を柔らかな光で満たす。窓の前には献花などを想定してカウンターをしつらえ、その上に、扉付きの骨壺棚を格子状に配置した。希望者は、遺骨の一部を分骨壺に納め、ここで眠ることもできる。
戒名は栗材の扉に刻まれる(やがては2,000を超える戒名で埋め尽くされるだろう)。この壁面と連続するように、床には瓦タイルを貼った。天井の梁は「御神木」の直上で交差させ、空間に求心性をもたせている。預骨堂での預かり期間を終えた遺骨は、境内の最北に位置する合祀墓「おもい木の塔」に運ばれ、樹木葬として供養される。外の道路からも見える預骨堂と、墓群の奥にポツンと建つ小堂・合祀墓とを連携させるために、南と北の端と端を結ぶアプローチとセットで、合祀墓としての視覚効果を考える必要があった。
補足すると、京都や奈良などにある有名な寺とは異なり、日本のほとんどの寺院では、檀家制度を財政基盤にしており、墓石ひとつとっても、その大きさや色・かたちは檀家ごとに異なっている。それらがたち並ぶ墓域は、デザイン的には無秩序といえる。墓域は境内のほとんどを占め、寺院の佇まいや景観全体にも少なからず影響を与えている。
今回のプロジェクトでは、これら無秩序な墓群の中に、極めて秩序あるかたち、直線や三角形といった幾何学を挿入して、合祀墓「宿り日堂」を建てることにした。
この小堂には、預骨堂、普門寺の裏口、樹木葬の際の礼拝方向という、3方向へのアプローチも必要だった。そこで、ストライプ模様を施したコンクリート折板の壁を3枚、天頂部で合わさるように立てかけ、間に生まれた2つは出入り口に、1つは礼拝時の献花台とした。内部は木格子を垂直に並べ、見上げたときに、地上へ向かって放射状に降りてくるラインが、天井の一点で結ばれるようにデザインした。
敷地も含めて三角形という単純な幾何学造形と、コンクリートと木という素材のコントラストは、蛇行するアプローチを進み、合祀墓に近づくまでの間に、さまざまな表情を見せてくれる。納骨堂も墓も、言ってしまえば、遺骨の倉庫以上の機能を持たない。人が墓苑を訪れたとき、それ以上のなにかを感じるのは、先祖崇拝など宗教的な力によるものだろう。
建築家として私がしたことは、素材や幾何学、光を駆使して、参拝者の感覚器官に訴え、俗域と分節された聖域を立ち上げることであった。私はかねてより、前述の檀家制度などにより、墓地と伽藍に二分されている日本の寺院のランドスケープを、デザイン的に連続させたいと考えていた。この〈普門寺日野宿みちの墓苑〉での仕事は、その試みのひとつである。
普門寺 みちの墓苑- 所在地:東京都日野市
- 建物用途:納骨堂・合祀墓・庭園
- 構造規模:木造
- 建築面積:24.20㎡
- 延床面積:72.60㎡
- 竣工:2019/08